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やっぱり、ありのままが一番格好良いんだよ

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いつだって格好良くみられたいし、いつだって最も劣っていると思われたくない。私は、ずっとそうだった。今回は、そんな小さな器の持ち主の自分がちょっと変わった話を書こうと思う。

ずいぶん前の話なのだが、とある映画のトークイベントに参加したことがあった。大人数が密な状態はあまり好まれない時期だったので、感染対策を講じた上で慎重に開かれた会だった。映画の裏話や登壇者それぞれのおすすめの映画などを話し、会場はアットホームな空気が流れていた。
最後に、一人ずつ撮影中のエピソードトークをして会を締めることになった。とたんに私の心臓は相変わらずドキドキし始めた。エピソードトークと言ったって、理路整然と他人に伝えるのはスキルが問われる。カカカカッ。まるで熟練のエンジニアが高速でプログラムを構築していくように、私は頭の中で言葉を組み上げる。ようやくエピソードの輪郭が整いそう、と思った矢先、マイクが向けられた、私の番だ。



黒光りするマイクの柄に反射した照明の光に照らされた瞬間、脳のあちこちに飛び散りそうになる言葉たちを必死にかき集めて、私は話しだした。
お客さんを楽しませたい、面白いと思って欲しい、下手に思われたくない、上手く話したい。祈りと焦りと媚びと想いとがないまぜになってお腹のあたりをぐるぐるし始めた。

少し、言葉尻を強調してみた。形容詞を大きくして、身振り手振りをつけてわかりやすくした。客席から笑い声が聞こえた。安心した。もっと大きくしてみた。お客さんのうなずく顔が見えた。言葉がすらすら口から出てきた。もっと大きく、もっと大げさに!

話し終えると客席から拍手が起きた。
嬉しかったが、同時に後味の悪さも残った。
私は、話を盛ったのだ。

この日はなんだか、落ち込んだ。家に帰り、ちゃぶ台に突っ伏して考える。会場での私が間違っていたとは思わない。だけど、どうにもならないもやもやが腹の中でぶくぶくと溜まっていた。



そんなもやもやを抱えていたある日、とある映画と台詞を思い出した。

「実は私、本気のハロプロオタク!
通販で胸が大きくなる機械買ったことある!効かなかったけど!家の調味料ほとんど賞味期限切れ!植物すぐ枯らす!彼氏の携帯、今まで2回見たことある!パスワード解除するの得意!いつか結婚はしたいけど、めんどくさいから考えたくない!以上、好きな人には絶対言えない秘密ー!」

穐山茉由監督の映画『月極オトコトモダチ』のワンシーン。大人の男女の間には恋愛は存在するのかというテーマで、主人公の那沙がレンタル男友達の「ヤナセ」に恋をしないために、「友達で居続けるための儀式」としてヤナセの前で大声で自分の秘密を叫ぶシーン。
この映画を見たとき、海に向かって大声で自分の赤裸々な秘密をぶちまける那沙が、無性に可愛く見えて、このシーンだけで大好きになった。
この秘密を字面通り受け取るならば、那沙はいわゆる「良い女」からは遠く離れたちょっと大雑把な女性だろう。だが、「ええい、ままよ!」とも言わんばかりの開き直りのようなスタンスで「ありのまま」をさらけだす姿がとても愛おしく感じたのだ。



ふと気がついてみると、私の好きなものは、いつも「ありのまま」が満ちていた。川上未映子さんの小説には女の生き方の苦悩の中に匂い立つ本音があったし、以前観劇した「悪い芝居」の演劇はコロナ禍で生きる私たちの建前の裏側にあるほの暗い気持ちを代弁してくれた。ラジオも芸達者な人たちが巧妙に繰り広げる「ありのまま」の本音が聞こえるから面白いと思う。

「ありのまま」ってなんでしょう。映画を見終わったリビングで考える。実際の有様の通り。飾らないこと。今の状態を受け入れること。必要以上に盛らないこと。必要以上に相手に期待させないこと。それは、腹にたまったもやもやを過不足なく消化させ、お客さんにとっても自分にとっても誠実な気がした。だから今のとこの目標は、「ありのまま」でいること。私は、できないことはできないし、できることはできる。できない自分が恥ずかしいなら、できる自分になるしかない。道のりは気が遠くなるほど長い。それでも、「ありのまま」で立っている人間は一番格好いい気がするんです。

POSTED

2021-12-30

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