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毒にも薬にもなって、どうしようもなく愛おしい:映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」“大人は深呼吸に高い金払ってるだけ。”

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最近、息をすることが苦しくなるときがある。

物書きというお仕事をさせてもらっているものの、「自分がとっても成長できた」「これを成し遂げた」という達成感があまりないまま、バタバタとタスクをこなす時間だけが経ち、1日が終わっていくためだ。とくに、お日様が落ちてしまってからはなんだかあっという間で、終わっていないタスクや将来の目標に向かっているのかなど、あれこれ考えてしまって落ち着かない。ひゅー、ひゅー、と空っ風みたいな音がして、気がつくと呼吸が胸のあたりで止まってしまっていた。



そんなどこか誰かに急かされているような日々を送っていたとき、数年ぶりに高校の友人と会う機会があった。彼は当時よりも痩せてスタイルがよくなっており、大人びたタバコを持っていた。まじめな性格は変わっておらず、一杯やらないかと店に入ると、仕事にやりがいはあるけれど、ときどきこのままでいいのか、不安になるときがあるとこぼした。「そういう時にさ、こう1本吸うとさ、頭の中がすうっとするんだよね」居酒屋のカウンター席で、彼はタバコを一本咥えながらそう言った。お酒もまわり、気持ちが大きくなったところで私も一本もらってみた。慣れないタバコに頭がくらくらしつつも、メンソールのすん、とした冷たい香りとウイスキーをストレートで飲んだときのようにじいいんとした痺れに近いものが頭に昇ってくる感触を感じながら、ある言葉を思い出した。




それは、映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』のセリフ。両親を亡くした4人の中学生で結成されたバンド「LITTLE ZOMBIES」は、社会現象になるほど注目を集めるものの、大人の事情でバンドは解散に追い込まれてしまう。嵐のような日々が終わり、バンド活動に別れを告げるために、4人が廃墟で楽器を燃やすシーン。

廃墟の高台で、バンドの紅一点であるイクコがタバコのような細長い筒に口をつけ、息を吸って、吐く。
「吸うの?」主人公のヒカルが聞く。
「これはレシート。これで吸うと深呼吸ができるんだよね」と紙を広げながら話すイクコ。

そして、画面いっぱいに映し出された彼女の大人びたきれいな顔が、吐き捨てる。
「大人は深呼吸に高い金払ってるだけ。馬鹿だから」



これをみたのはちょうど半年ほど前。映画館で聞いた瞬間、脳天にボウガンを刺されたかと思うくらいズドンっ!とした衝撃が走ったのを覚えている。あれ、私が深呼吸を最後にしたのはいつだったっけ。深呼吸には体の副交感神経を促し、落ち着かせる作用があると聞いたことがある。対して、私たちのような浅い呼吸は、体が緊張している証拠だそうだ。私たちは1日のタスクの完了に向けて、肩や胸の周りだけで行う浅い呼吸で体を臨戦態勢にし、つねに機敏に動かねばならなかった。大人になるうちに、私も目の前で何本目かわからないタバコをふかす彼も、毎日の仕事などに追われて、いつのまにか深呼吸の仕方を忘れてしまったのかもしれない。生まれてから誰もが自然にできるはずの深い呼吸のしかたがわからなくなるなんて……中学生からみたらそりゃあ馬鹿に見えるかもしれない。




帰り道、寒すぎて立ち寄ったコンビニのレシートを、イクコを真似てストローのように丸めて息を吸ってみた。メンソールよりもきんと冷たい都会の冬の空気が肺に入っておなかのあたりまで落ちてくる。膨らんだおなかから体温で生ぬるくなった息がわあっと溢れ真っ黒な空に昇って、息といっしょに少し力が抜けた。あ、これが深呼吸なのかしら。そういえば、13才の私は大人は絶対的に正しく、強く、すごいものだと盲目的に信じ切っていた。けれども、自分が大人になってわかる。実は、大人はときどき力を抜くための呼吸にすらお金がかかる弱い存在なのだ。きっと、明日も彼はふとした時にタバコを吸うし、わたしも肩周りだけの浅い呼吸で仕事をこなす戦闘態勢に戻っている。


浅い呼吸の毎日は楽しいとは言いがたい。それでも続けられるのは、大切な誰かの平穏やたくましい自分の未来を願うからだろう。いろんな大人が弱いとわかりながら、ときどき丸めた紙から息を吸って脱力しながら生きている。大人が弱い存在だと中学生ながらに見抜いているイクコたちも大したものだが、自らが弱いと知りながら日々生き抜いていることがどれだけ強いことか、彼らはもう少し歳を重ねてわかっていくのだろうな、と思う。

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POSTED

2020-04-12

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