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描きつづけるために前に進む。くらちなつきの静かな挑戦。

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新しいことをはじめるときには、どうしたって二の足を踏んでしまいがちなもの。そんなときには、常に新しいことにチャレンジし続けるイラストレーター、くらちなつきに話を聞いてみたい。

美大在学中からフリーランスのイラストレーターとして活動し、卒業後は雑誌「GINZA」での連載やスポーツファッションブランド『オニツカタイガー』のInstagramのイラストレーションほか、広告や雑誌、webなどで幅広く活躍している彼女。

その華々しい経歴の裏側には、彼女の未来をみる強い想いとたゆまぬ挑戦の軌跡があった。


「迷ったら動く」

取材中、くらちなつきは何度もその言葉を口にした。

美大在学中からフリーランスのイラストレーターとして活動し、卒業後は雑誌「GINZA」での連載やスポーツファッションブランド『オニツカタイガー』のInstagramのイラストレーションほか、広告や雑誌、webなどで幅広く活躍している。

そんな一見華々しい経歴を持つ彼女は、一抹のおごりも見せず、こういった。

「私は、絵を描きつづけていたいだけなんです」

絵を描くことだけは、絶対にやめられなかった


「この街はクリエイターや友達がたくさん住んでいて、前から憧れていたんですよね」

自宅からの散歩にちょうどいい距離にあって週に1回は散歩している、という中目黒の商店街を彼女は楽しそうに紹介してくれた。お気に入りの古着屋さんが数件あって、ふらっと立ち寄ったときに見つけたヴィンテージの服から作品のインスピレーションをもらうことも。


物心ついたときから絵を描いていた。

家庭は両親ともに会社員の普通の家庭。絵に関わる人も周りにはいなかったが、気がついたら絵の魅力にはまっていた。彼女の絵は目に入るイラストを模写することから始まった。

次第に、興味の対象は近くにあったムーミンのイラストから動物や風景になり、続けているうちに、家族や友人に「絵が上手」と褒められるように。周りも自身も美術の方面に進むのだろうと思っていた。

もちろん、興味があったのは絵だけではなかった。しかし、長くは続かなかった。

「好きなことをしているのに、“しんどい”と感じることが多いものは自分のやり続けたいこととは違うのかなって。…でも、絵だって結構しんどいんですけどね」

わりと本気でやめたいと思うこともありますよ、と冗談めかして語る彼女。しかし、その眼差しはどこか真剣で、創作の難しさや大変さを感じさせた。

それでも、

「絵だけはやめられなかったんです、やっぱり好きなんでしょうね」

「絵で生きていく」ための焦り


絵を描いて、描いて、描く。

幼いころからの「描く」生活の延長線上で、美大の油彩科に入学し、油絵を本格的に学び始めた。憧れの大学に入学して嬉しかったのも束の間、自分の将来に焦りを感じ始める。

油彩画のスキルこそ必死に磨いていたものの、それがどうビジネスにつながっていくのか見えなかった。

「私、将来どうやって生きていくんだろう」
大学2年生のとき、はじめて自分の将来について考えた瞬間だった。

絵を売るだけでは、生活はむずかしい。じゃあ、どうしよう。もともと雑誌を読んでいて、ファッションが好きだったこともあり、雑誌や広告などに服をおしゃれに着こなした人物を描くファッションイラストレーターという仕事に憧れを抱くようになる。

「今まで続けてきたのは絵しかなかったから、絵で生きていくしかないと思ってて。そのためだったらイラストに変えることは苦じゃありませんでした」


しかし、人物画は一番の苦手分野。
「他のデッサンはいい成績がとれるのに、人物だけはどんなに練習してもダメで。たぶん教室で成績は最下位だったと思う。でもイラストをやるなら描くしかない、と思いました」

悩んだ末に見つけたのは、外国のファッションフォト。頭身が長いすらっとしたモデルが目をひいた。「イラストだったらプロポーションを変えてもいいんだ」、そう思ったとき、彼女の特徴である頭身の長いモデルを描くスタイリッシュなイラストが生まれた。

それからはとにかく行動をする日々。

「まずは自分のことを知ってもらわなければ」
独学でイラストを学びつつ、どんなに忙しくても週に1回はギャラリーやイラスト関係のイベントに足を運んだ。制作会社のアートディレクターにもアポイントをとって、積極的にあいさつに行った。

美大の勉強に加えての活動はとてもハード。その行動ぶりはクラス内でも有名だった。「あいつ、なんであんなに頑張ってるんだ?」とどこからか噂が聞こえる。

それでも、止まない「焦り」が背中を押した。

「迷ったら動く」失敗よりも次を向く


描きつづけるために独学で挑んだイラストへの道。
不安もあった。行動をつづけていても、結果はすぐにはついてこなかった。
絵で生きていきたい、その想いだけがくらちなつきを押しすすめていた。

転機になったのは、大学4年生の春。イラストレーターの登竜門とも言われる雑誌「イラストレーション」内のコンペティション「ザ・チョイス」で入選を果たす。美大在学中から10回以上応募してやっとのことだった。

「授賞式で、はじめて同業の人とお会いして、お仕事をもらうことができるようになったんです」


卒業後はフリーランスのイラストレーターとしての道を本格的に歩んでいく。

職業柄、活動を続けていると、いろんな相手と付き合うことに。時には、合わないクライアントと出会うことやハードスケジュールを組みすぎて、体を壊してしまうこともあった。

「やっぱり、落ち込むこともありますよ」

ナーバスなときは、わざと空いているスケジュールに友達との飲み会をいれたり、映画を見たり。ひとりでじっと内省の時間をもつのではなく、すぐに新しい行動に移して気持ちを切り替える。

「迷っている時間がもったいない、と思うんですよね」


失敗を省みつつもあたらしい行動を積み重ねているうちに、InstagramのDMから大きな依頼が舞い込んでくる。

送り主はアメリカ・ラスベガスのホテル。リニューアルするオフィシャルサイトのトップページのイラストをお願いしたいとの依頼だった。責任は重大。それでも、見た瞬間にやってみよう!と思った。二つ返事で出したOKサイン。

しかし、はじめての海外のお仕事は、前途多難。契約書の確認や担当者とのやり取り、イメージのすり合わせ……日本ではスムーズにできていたことが、とても難しく感じた。それでも、自由にやらせてもらえて楽しかった、と今では笑って話せる。

「自分のイメージとは違ったり、いろんな縛りがあったりする仕事も面白がって引き受ける。むしろ、制限があると楽しく思えてくるんです」

「とにかく描きつづけていたい」彼女の見据える未来


「とにかく絵を描きつづけていたい」

今は具体的な目標はないんです、と彼女はふふ、とはにかんで笑った。

「具体的な目標があったら、それを達成したら終わっちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、おばあちゃんになっても絵を描きつづけるのが夢なんです」

彼女の夢は、決められた時間内でコツコツと仕事をこなすルーティンのある生活を送ること。

クリエイティブな職業といえば、働く時間も自由なイメージがあるが、彼女は違う。日中、自分が決めた時間内で活動し、夜は映画を見たり友達と飲んだりしてインプットやリフレッシュの時間に。

「朝が得意で、体があまり強くないんですよね」くらちなつきには自分にあったこの生活をおくることが、“絵を描きつづける”夢を支えている。

0からのイラストへの転向、イラストレーターとしての確立、初めての海外のクライアントとの仕事……その挑戦は決して華々しいものじゃない。ただ、「描きつづける」という夢のために前に進んだ軌跡。

「迷ったらまずは動くんです」

字面だけみると、使い古された言葉かもしれない。
でも、彼女がいうその言葉には、他の誰よりもずっしりと重い説得力と未来を見据えた力強い意志があった。

MAKING

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POSTED

2020-03-29

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