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“偶然”を待ちながら、近道を考えずに、粛々と日々を過ごしている。|『はじまりを、はじめる、はじめかた』

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「1日のはじまりを、はじめる。」をコンセプトとしたWebマガジン『KOMOREBI』の立ち上げメンバー・井上拓美が、研究や表現など、さまざまな分野で活動している方々との対談連載『はじまりを、はじめる、はじめかた』。

Vol.0となるこの記事では、井上拓美のおもうことを届けます。


こんにちは。KOMOREBIの井上拓美です。

KOMOREBIを立ち上げて1年ほどが経ち、今回初めて、KOMOREBIで連載『はじまりを、はじめる、はじめかた』をはじめることになりました。

「はじまりを、はじめる。」

2020年2月、僕たちが立ち上げたWebマガジン『KOMOREBI』は、この「はじまりを、はじめる。」という言葉をコンセプトに、1年以上かけてさまざまな方に取材させていただきました。



KOMOREBIを立ち上げたうちのひとりである僕は、飲食店やIT企業の経営を経て創った『MIKKE』で、経済を包括したアート活動をしています。 

クリエイターのコミュニティスペース『ChatBase』や、HOTDOGSHOP『SPELL’s』、吸うお茶『OCHILL』、ラジオ番組『ハミダシミッケ』、絵本やホテルなど多くのプロジェクトや新規事業を仲間たちと手がけてきた僕がWebマガジンを立ち上げようと思った理由を、これからはじまる連載『はじまりを、はじめる、はじめかた』のあいさつとして、記させてください。

僕はこれまで、ありがたいことにイベントに登壇したり、取材をしていただいたりする機会が何度かありました。

なかには、「どんな原体験があったんですか?」「どんな軸を持っているんですか?」と聞かれることも多かったのですが……(きっと、取材を受けた経験のある人は身に覚えのあることではないかな……)。

それを聞かれたときに「いわゆる原体験なんてないし、軸も別になかった。あったとしてもそれを答えることに意味はあるのかなあ……?」と思っていました。

というのも、原体験や軸のようなものは、その人のものであって、誰かがそのまま真似できるわけではないし、同じことをやったとしても同じものが返ってくるとは限らないと考えているからです。

僕は、原体験や軸といった、わかりやすく明確なものよりも、日常の延長線上のなかにあるものでどんな行動をとったのか、何を意識したのかというような、本当に些細な積み重ねにこそヒントがあると思っています。

僕自身、飲食店を経営したときも、ITのスタートアップを立ち上げたときも、MIKKEを創ったときも、思いきりというか、「よし、はじめるぞ!」という確固たる意志があったわけではありません。もちろん決意はしましたが、それよりもむしろ「気づいたらはじまっていた」という感覚が強く残っているんです。

僕を突き動かした瞬間には、周囲との比較はありません。つまり、他者の原体験や軸みたいなものがなかったのです。

何かをはじめるときに「はじめよう!」と強い決意表明があったほうが頑張れるかもしれないけれど、それだとついつい周囲と比べてしまうような気がします。それよりも、日々の積み重ねの延長線上から「はじまっちゃった」ほうがいい。

「何かをはじめないと」と思っている人のなかにも、きっと「気づいたらはじまっていた」「はじまっちゃっていた」という瞬間はあると思います。僕もその瞬間に気づけたときにはじめて自分の“個性”を知れたし、“オンリーワンな存在である”ことを自覚できました。



「はじまりを、はじめる。」というコンセプトは、僕や、一緒につくりあげている仲間たち、日頃から僕を支えてくれている人たちの、そういった経験から生まれています。

取材をするときも、決まった質問を用意するよりは「はじまっちゃっていた」瞬間を一緒に拾い集めていく感覚で進めています。


取材に同行したり、記事を読んだりして感じたことは、僕らが取材した人たちみんなが「気づいたらはじまっていた」「はじまっちゃっていた」人だということ。

たとえば山下優さんは、立ち読み目当てでよく足を運んでいた青山ブックセンターでアルバイトをはじめ、社員になって、店長になって……と地道に積み重ねた結果、“今”を生きている人です。

「僕は全部のことが地続きだと思ってる。あのご飯食べたから、あの本読んでみようって思うかもしれない。あの本読んだから、あの服着ようって思うかもしれない。面白がるっていうのは、ジャンルで分断するのでは無く、“何でもつながってる”と考えること。

そうして好奇心をひらき続けると、自然とこれまでの経験がつながってくるのかもしれないですね。」

無駄な過去なんてないと気づけた日。青山ブックセンター店長、山下優の”千夜一夜物語” より)


「全部のことが地続きだと思ってる」と話してくれたように、振り返ればすべての道はつながっていて、目の前にも広がっていると感じられることこそが大切なのではないかと思えた取材でした。

洋服のブランド『foufou』のマール・コウサカさんは、「人の心を動かすのは、ノウハウよりも、リアルなエピソードから滲み出る想いや人間味」と語ってくれました。

「最近は〈効率のいい稼ぎ方〉を教えてくれる人がSNSでは目立っていますが、そういう人たちにブランドは作れないと思う。時代は関係なく、人の心を動かすのは、ノウハウよりも、リアルなエピソードから滲み出る想いや人間味。

だから、あえて変なことするのは大事ですし、経験がどんなふうに〈滲み出る〉かすごく楽しみですね。これだから〈積み上げ〉はやめられません。あ、もちろん、あくまで自分が無理しない範囲でやるのが肝心ですけどね」

いつだって、不遇こそエンターテイメント。マール・コウサカが歩んだ「foufou」な日々 より)


“積み上げの感覚”を持っているマールくんだからこそ、「気づいたらはじまっていた」ことにも気づけたのではないか? と僕は思っています。

僕は、KOMOREBIの取材を通して、「はじまっちゃっていた」人は「待てていた」のではないか?ということに気がつきました。「待つ」というよりは「置いている」という言葉のほうが意味が近いかもしれません。何かうまくいかないことがあったとしても、“偶然”を待ちながら、近道を考えずに、粛々と日々を過ごしている。それが共通点だな、と。

とはいっても、「何かをやらないといけない」と思うときは焦ってしまうと思います。



僕もそうでした。むかしは成功しているように見える人がいたら羨ましくて仕方がなかったし、自分はできないんだと落ち込むこともありました。

ですが、そんな僕を受け入れてくれて、オンリーワンな存在として認めてくれる人たちや環境と出会って、「はじまっちゃっていた」ことに気づくことができました。そのときの自分のなかにはもう、“他者との比較”はありませんでした。

「みんなそれぞれ個性がある」という言葉は世の中に蔓延しているけれど、そんなことを言われても自分がそうであると確信できるとはかぎりません。

全員に個性があり、オリジナルだと思っているからこそ、僕は誰かとクリエイションするときに、その人本人が「自分はオリジナルなんだ」と気づいてもらえるための環境づくりを意識しているし、そのためのプロセスをともに歩むのがとても好きです。

そうして、考えるのです。

「どうしたら、みんなが他者と比較しなくても大丈夫になるんだろう?」
「どうしたら、みんなが“はじまっちゃっている”ことに気づけるようになるんだろう?」

と。

だから僕らは、「はじまりを、はじめる。」をコンセプトにしているKOMOREBIのなかで、研究や表現などさまざまな分野で活動している方々との対談を通して、読者の方々がいちど深呼吸して、積み重ねによって生まれた“今”を見つめられるヒントを探る連載をはじめることにしました。

あらゆるゲストをお招きしながら、「そういう環境はどうつくれるのだろう?」「それをなぜあなたがやろうと思ったのだろう?」など対話を通して、人が「はじまっちゃっている」ことに気づくヒントを見つけていけたらと思っています。

POSTED

2021-10-10

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