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いつだって、不遇こそエンターテイメント。マール・コウサカが歩んだ「foufou」な日々

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SNSを見ていると、必ずといっていいほど目に入ってくるのが、成功した人たちの方程式、のようなもの。本当は自分のペースで地道に〈積み上げ〉ていきたいのに、どこか急かされた気持ちになってしまう。

そんなときは、自他共に認める〈積み上げ〉好きの男に話を聞いてみよう。ファッションデザイナー、マール・コウサカ。と言っても、彼の積み上げは、デザイナーの王道とは全然違う。どちらかというと、彼のルーツは「エンタメ」だ。



怖いのは、お化けよりも「意図せず売れてしまうこと」


女の子の心をわしづかみにする「ギュンカワ」な服たちを丁寧に届けるブランド「foufou(ふーふー)」。いまや新商品が発表されるとすぐに完売してしまうほどの人気ブランドだけれど、デザイナーのマール・コウサカは、意外なほどミーハーな性格だ。

「学生のときからずっとオモシロキャラですよ。ミーハーだし、デザイナーとして軽薄なのかなと思ったこともあったけど、マスなコンテンツも愛せるからこそ作れる、社会との接点があるんじゃないかなと、今は思ってます」

マールは、何事に対しても決して中指を立てない。心の中には反骨精神があるのかもしれないけれど、大衆や、大衆化されたエンターテイメントを嫌ったりはしない。

自らミーハーだと公言しているし、取材に伺った自宅でも、人気YouTuber・アバンティーズのパーカーを部屋着にしていると教えてくれた。着てみせてもくれた。ちなみに、他に好きなユーチューバーは東海オンエアだという。



一方で、〈意図せず売れない設計〉に何よりもこだわりを持つ。

〈意図せず売れてしまうこと〉によって、本来向き合うべき顧客を見誤ってしまうことが、何より怖いのだという。



「いつも大切にしているのは〈積み上げ〉の感覚。服の作り方も、ブランドのファン拡大も、一つひとつの成長を受け止め、解釈してからでないと、次のステップに進む気になれないんです」

仮にバズって人気を得たとしても、人気を得るまでの積み上げをスキップしただけで、一度失敗しても這い上がることができない。バズってから失敗しないようにブランドを運営しても、守りに入ってしまい、おもしろくない。

健康的にブランドを続けていくために、マールにとってバズは最も避けるべき事態なのだ。



〈ウンコマン事件〉を機に、芽生えた芸人魂


積み上げ。下積み。

疲れる、辛い、暗い…。マイナスなイメージがあり、思わず避けてしまいたくなるこの過程を、マールは快く受け入れ、楽しくやりすごすことを考える。そう考えるようになった原体験は、小学校時代までさかのぼる。



小学校のころから勉強も運動も苦手。だからこそ、学校ではポジションをとる必要があった。

そのなかで目をつけたのが、オモシロキャラ。いまとなっては笑い話だけれど、オモシロキャラへの転身を賭けた、勝負の瞬間があった。



「男の子って、トイレが長いと絶対にイジられるじゃないですか。そのノリが苦手で。僕は気持ちよくトイレに行きたかったので、『ウンコしてくる!』って堂々と宣言するようにしてみたんです。

そしたら、イジりつつ『こいつカッケー』と思ってくれたみたいで、クラスのみんなが真似するようになりました(笑)」

通称、ウンコマン事件。

一人っ子の家庭で育ち、同世代の居場所がなかったマール少年にとって、〈ウンコマン宣言〉はまさに、覚悟を決めた瞬間だった。



この事件から、マール少年はどうやら〈オモシロキャラ〉として生きていく覚悟を決めたらしい。

高校時代には、天然パーマでモーツァルトに似ている見た目をデフォルメされ、クラスのメインキャラクターとして文化祭のTシャツになったこともあった。



オモシロキャラのスタンスはいまも持ち続けている。学校の教室でがむしゃらになったポジション探しの舞台がファッションビジネスに変わっただけの話だ。

「いつも考えているのは、いかに初めて会った人の印象に残るか。印象に残るためにはフックとおもしろさが必要ですし、おもしろさも、性格や佇まいに紐づいてないと聞くひとは笑えません。

それに、闇雲におもしろいことを狙っても、自分自身が消耗してしまう。自分が無理をしないこともとっても大事だと思っています」



一番の教科書は、芸人のラジオ。オードリーやバナナマンなど、下積みが長くても、それを楽しく過ごしてきた芸人の話が好き。つい〈積み上げ〉をサボってしまいそうになったとき、芸人の話を聞き、自分だったらどうおもしろくするか、を考える。

そうやって辛そうに見える〈積み上げ〉を楽しく、健康的に過ごしてきたのだ。

エンターテイナー、マール・コウサカ


マールの芸人魂は、キャリアにおける価値観にも大きな影響を与えている。

大学時代、就活には身が入らず、ファーストキャリアは良品計画の契約社員。その後、会社の先輩に進められたことがきっかけで、働きながら文化服装学院に通うことを決める。在学中に立ち上げたのがfoufouだ。



「大卒で契約社員になって、ヤバイな…と思うときもありました。ですが、キャリアを踏み外すと、僕が憧れた〈変なひと〉に近づけたような気がして、嬉しくなる自分もいるんです。

だって、僕が単に大学卒業してアパレル立ち上げて普通に生活してたら、こんな風に取材してくれないでしょう?」

また、マールの「芸人魂」はブランドにもハッキリと反映されている。

foufouとはフランス語で〈お調子者〉の意味。この言葉をブランド名に選んだ理由には、明治〜昭和期にフランスで活躍した画家・藤田嗣治の存在がある。

藤田はフランスで活動中、日本人というアイデンティティや、自由奔放なキャラクターが愛され、〈“Fou”jita〉と呼ばれた。藤田の人生は、置かれた状況を見定め、愛されるポジションにつくマールと重なるものがある。



マールは、そんな生き様がどんなふうに“滲み出る”かを楽しみにしながら、今日も地道に〈積み上げ〉を楽しむ。

「最近は〈効率のいい稼ぎ方〉を教えてくれる人がSNSでは目立っていますが、そういう人たちにブランドは作れないと思う。時代は関係なく、人の心を動かすのは、ノウハウよりも、リアルなエピソードから滲み出る想いや人間味。

だから、あえて変なことするのは大事ですし、経験がどんなふうに〈滲み出る〉かすごく楽しみですね。これだから〈積み上げ〉はやめられません。あ、もちろん、あくまで自分が無理しない範囲でやるのが肝心ですけどね」



喜劇王と呼ばれたチャップリンは、孤児院で過ごしたつらい幼少期を思い返しながら「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」と語った。そのときは辛くとも、数年後には笑い話になっている経験ばかりだ、と。

『天才バカボン』で知られる漫画家の赤塚不二夫は、“人生の喜怒哀楽をあるがままに受け入れることが現状打破の一歩だ”というメッセージを、「これでいいのだ」とシンプルに表現してみせた。



いつの時代も、エンターテイナーたちは不遇を愛し、歓迎し、自ら軽やかな一歩を踏み出して見せることで、熱量の高い共感を集めてきた。

だからこそ、私はこう言いたい。

成功の方程式のような幻想がもてはやされるいま、〈下積みを慶び、楽しむ〉マール・コウサカこそ、私たちに新たな歩み方を教えてくれる真のエンターテイナーなのだと。

MAKING

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2020-03-08

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