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見えているものの外側に思いを馳せる。タトゥーデザイナーIwaya Kahoの「ひらく」意識

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“今いる場所よりもっと広い世界に意識を飛ばすと
なるようになっているのかも、と思えて楽になれる”

タトゥーブランド「opnner」を主宰するデザイナー岩谷香穂(Iwaya Kaho)は、まさにひらく(open)人だ。

「タトゥー」と聞くと、まだ少し「悪いもの」のイメージもよぎる。“刺青のあるかたお断り”の銭湯も多い。「opnner」は、そんなタトゥーの狭いイメージを、ぽわんと広げてくれる「ユーモア」のような存在に感じる。

いま自分が見えているもの、あるものに対する考え、こうなるであろう未来。その外側にまで目を向けたとき、ふっと力が抜けて、自分の中で何かがはじまるかもしれない。



凝り性で完璧主義


新宿伊勢丹でのポップアップやファッションブランドとのコラボレーションなど、次々と活躍の幅を広げているopnnerのデザイナー・Iwaya Kaho。最近は、タトゥーシールブランドという枠を越えて、挿絵や映像などの仕事も増えた。

「思いを伝える媒体はなんでも良いと思っていて、イラストのときもあれば、文章のときもある。でも、わたしは美大に行ってたわけでもなくて、タトゥーシールをつくるというところからちゃんと絵を描き始めたんです」



生まれは滋賀。小さい頃から、図工は大好きだった。好きなアイドルのコラージュや、彼氏への手作りアルバム。凝りすぎて三徹くらいしたこともある。高校生は、「ギャルの茶道部だった(笑)」。

「ギャル友達数人と、おもむき〜なんて言いながら、でも意外と真面目にお稽古していました。みんないろんな理由で流れ着いて入ってたんだと思う。わたしは普通に茶道いいなあと思っていたりして、なんか自分の見た目と中身のチグハグさには気づいてた」



その後、大阪の大学に進学。ある時、偶然雑誌『POPEYE』で東京のZINEデザインスクールの存在を知り、ちょっと挑戦してみようかな、と足を踏み出したところから、少しずつ世界が広がっていった。

滋賀から東京へ月2回ほど新幹線で通い、フリーペーパーなどを制作する日々。相変わらず凝り性で、入稿ギリギリまで駅のホームでカッターボードをひらいたりしていた。



ぷつんと切れた糸


大学3年生で、タトゥーシールブランドをはじめたのも、その延長だった。高校生のとき、ネットで見つけた海外の女性彫師の細やかな柄のタトゥーにずっと憧れていたこともあり、ペンで自分の手首に落書きをして遊んでいた。しかしペンのインクが服に移ってしまったことから、もともと興味があったタトゥーシールを実際に作ってみたことがあった。



「これならやれるかもって気持ちで、やれそうなことをちょっとずつやっていっただけで。そんなに長く続けようとは思ってなかった。とにかく黙々と手を動かしてるのが好きだから、シールを送る封筒にひとつひとつ絵の具で模様を描いたりしてた、ひたすら。たぶん完璧主義なんよね」

そんなkahoだからこそ、卒業後の将来のこともちゃんときっちり考えたかった。一方で、opnnerの活動も本格化してきていた。初めての海外でポートランドに行ったり、友人とポップアップイベントを企画したり。

このままopnnerを続けてみたいという気持ちが大きくなる中、就職することも考えて企業研究や自己分析などを細かくノートにまとめていた。でも、心から行きたいと思える企業が見つからなかった。



「そんな中、入院していた母親が亡くなったんです。なのに、ちゃんと悲しむ時間もなく、心も身体もボロボロなことに気づけないような状態だった。それである日、きちきちに詰めていた何かがぷつんって切れて。
 倒れて、耳が聞こえなくなって。でも病院のベッドで、ああもう就活しなくていいって安心してる自分がいた。本当は違うって気づいていたんだと思う」

それで、opnnerを続けてみることにした。気持ちと行動がチグハグになっていたら、最後はちゃんと身体が悲鳴をあげて、心の底で自分が望んでいた道を切り開いてくれたのかもしれない。

グレーゾーンにいる感覚




opnnerのタトゥーシールは、お風呂に入るとはがれるため、基本的には1日のいのちだ。Iwaya Kahoの手から旅立ったシールたちは、ときにファッションとして、ときにお守りとして、たくさんの人のからだに寄り添っては消えていっている。

「わたしは、アクセサリーみたいにその日の服や気分で選んだりもするし、緊張する日には外から見えないところに貼って励ましにしたり、疲れてヘロヘロのときは元気づけるために付けたり。

 だから、もちろん人によって使い方は自由で。どういう時につけてほしいとかはなくて、わたしはただ、こういうタトゥーもあるよという提案をして、イメージが広がったらいいなと思ってつくっています」

タトゥーというのは体が変わろうと
人生を共存できる
最高の励ましであって
永遠のジュエリーです

(opnnerコンセプト文より)






いつかは自分のからだにもタトゥーを彫りたいと考えていた中で、ふと「これしかない」と思い立ち、二の腕の内側に地平線をイメージした一本線を入れた。家族の誕生日を足した数「8」センチの地平線。
つらい時に励ましてくれる、自分だけのしるし。

「opnnerは、いいものと悪いもののグレーゾーンにいる感覚。タトゥー=刺青、ヤクザ、こわい、悪いものというイメージはまだ周りにあると思う。ただ悪いものって思い続けていたものでも、ある日ころっと考えが変わることもある。私はただ一方の見方に固定されて、もう一方が見えなくなることが一番こわい」



最近は、民族内の伝統を守るために入れる「トライバルタトゥー」を勉強している。ひとつの模様でも、国や地域でいろいろな意味がある。タトゥー文化に限らず、他にも物理や数学などいろんなことを学んで、引き出しを増やしたいと話す。

広い世界のひとり


もともと、選択肢を全部出してみてから決めたいタイプ。
一目惚れや衝動もあるけど、今の自分が見えているものの外にある可能性をできる限り考える。日頃からかなりの頻度で、TO DOリストと、「こんなことしたい」というWISHリストをつくる。




「自分が興味あることって、一見バラバラでもすべて通じてる。そう思うと、むちゃくちゃに特化してなくても好きなものはあったらあるだけいいなって。料理も好きだし、工作も好きだし。あと香りも好き。

 好きなものがいつどこで何とつながってくるか分からなくて、その可能性が潜んでると思うだけで、好きなものをより大切にできる。最近、香りものを買う時に馴染みのある香りを選びがちってことに気づいて。知ってると好きを混同しているのかもっていう宇宙に迷い込んで買えなくなった(笑)」


2020年におこなった個展のタイトルは、「in harmony with」。

ひとの少ない場所に身を置くと
普段感じるより、たくさんの生き物たちに
囲まれて暮らしていることに気がつきます
色とりどりの虫 歌う鳥
陽を浴びる植物たち

そして、自分もまた、この世界の
小さなパーツであることを思い出す
自然と溶けるように、
ふと心が軽くなるのです
今回のテーマは“調和をはかる”こと
(opnner 2020年個展「in harmony with」 より)




「最近は、自然に身を置いてるときが一番落ち着く。自分以外の生き物たちがいっぱいいて。息詰まった時、ひとりで平日の昼間にふらっと海に行ったりするんやけど、他にもみんなそれぞれ、ただぼーっと海を眺めていてそれが心地よかった。広い世界のひとりなんやなって気づける」


opnner(open+ner)で「ひらく人」。そのひらき方は、決して「切り拓く」ような鋭さや鮮やかさはなくて、もっと優しくて豊かな想像に満ちている。

深呼吸して意識をふわりと広げるとき、外側にある可能性が自分を別の道へと連れて行ってくれるかもしれない。


POSTED

2021-02-17

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